袋には「交配耐病総太東山大根」と品種名が記されていた。古くから「くみあいのタネ」として親しまれている商品で、我が家では毎年この種を購入して家庭用の大根栽培を行なってきた。しかし母が高齢になり、野菜づくりはできても、前提となる日常生活のための火の使用などに不安が生じていた。何度も説得し、ようやく独り暮らしを諦めてもらった。畑作の断念はそのついでに決まったことである。
これが通いで野菜づくりを始めることになった理由だが、母にしてみれば口惜しさは残る。農作業の全部を任せなければならないほどワシはまだ耄碌していない、とばかり細かな作業にまで一々口を出してくる。現場に出向いて監督するかと思えば、作業後に念入りな検分を行なって注文を付ける。他にすることのない閑人だから口うるさくて叶わない。
一箇所に二粒ずつ蒔いたのも、他ならぬこの指示に従ったまでのことである。この二粒という指示は母の永年の経験に基づく数字だが当然、前提となる畝の作り方や間隔、その後の管理方法や管理の手間など母の頭の中にはいくつもの条件があって、そうした条件の上に成り立っている。
ところが、こうした野菜づくりの現場を何も知らない人でも現代はインターネットを検索することによって、すぐにも野菜づくりを始められそうな多くの情報が手に入る。しかもたいていの情報には写真が付いている。だから、ある人は大根の種は「一箇所に3〜6粒ずつまき、2回間引く」のが「正しい」作り方だと信じ、ある人は「一箇所に4〜5粒ずつまき、3回間引く」のが「よい」と思い込むことになる。(つづく)
※こんなに発芽しても最終的に残せるのは1本、無理しても2本までである
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